めずらしく真面目に仕事をしています。
私が真面目に仕事したら雪が降るんじゃないかと思って……。
毎度。俺です。
とある天皇誕生日、とあるトップ標高2000メートルのスキー場に行ってきました。ひさしぶりのヒトリフトです。往路、あまりに眠かったので甘楽PAで仮眠をとった時点でこの日のモチベーションがわかろうと言うものです。高くはない。
アサマを選んだのは、私の好きなステージ3がやっとオープンしたから。アサマはこれでステージ1、2、3と出揃い、どうにか目鼻がついた感じです。
しかし行ってみるとセンターハウスとSt.2は徒歩移動だし、St.2とSt.3も徒歩移動。つまりSt.2は孤立状態。また、オープンしていないSt.4とアンテロとパノラマは草ボーボー。天然雪はほとんど降っていないようです。
まあ私にはSt.3があればいいんです。ほどほどの斜度と変化があって飽きないし、ふもとにCANADYという軽食堂があって一休みするのにちょうどい……えっ、CANADY休み? あ、そう……。
リフトの上からゲレンデを見ていたら、橋本真也の水面蹴りみたいなフォームのドリルをしている人たちがいました。おしりがヒールピースに触れるほどしゃがみこんで、準備運動の伸脚みたいに外脚を真横に伸ばしてターンしています。
つい「あれはいったい何の練習なんでしょうねえ……」と隣の知らない人につぶやいたら、「あれは、ワイドスタンスのフルカービングですね」と、そんなこともわからないのかといった口調で教えられました。
でもあんなにド後傾で内脚にどっしり乗っちゃったらフルカービングという現象は発現しえない気がするし実際ちっとも斬れてないじゃん……と思いましたが黙っていました。彼らには彼らのスキーがあります。
そうかと思うと、半月を長く引き伸ばしたような一風変わった板に乗っている集団もいました。特殊なスキー板の講習会のようです。集まっている方々の装備からして、山スキーの一種に思えました。
珍しかったので声をかけて写真を撮らせてもらいました。講習を受けている方々は「まあそうなるよなー(笑)」と照れつつもまんざらじゃない様子。講習の邪魔をしてすみませんでした。
この珍しい板はスプリットボードというギアのようです。滑走時はスノーボード、ハイク時は半分に分割してスキーとして使うのだとか。スキーとして履く時は断面を外側にして、スノボとしてのエッジがスキーとしてのインエッジになるように履くのですね。
滑走はかなり難しいらしく、転んでいるところもちょいちょい見ました。一度など私の目の前で転んだはずみに片方の板が解放して場外に飛んで行ってしまったので、飛んで行った場所を教えてあげたりしました。
さて、センターハウスに戻って一服するべと喫煙所に行くと、一坪ほどの狭い喫煙所は混み合っていました。私とおじさんスキーヤーがもうひとり、若者ボーダーが4人、計6人で喫煙所は満員です。
若者4人組はだべっているのですが、そのうち2人はタバコを吸っていません。狭いんだから吸い終わった人から出てほしいなあ、と思っていると、お仲間がさらにもう一人入ってきました。しかもその子はタバコを吸おうとしません。そもそも喫煙者ですらないようです。
きみ、タバコ吸わないのにこの狭いとこに無理やり入ってきたの?
そこまでしてお友達といっしょにいないと心細いのかなあ、ボク?
待てよ。すると、先にいて吸っていない2人も喫煙者じゃない可能性があるぞ。そう思い注意深く彼らを観察していると、会話の雰囲気からして、タバコを吸う2人がそのグループの中心格で、ほかの3人はタバコは吸わないけれどお供をしている、という構図が見えてきました。
なんという情けない男たちか。
タバコを吸うわけでもないのに狭い喫煙所までくっついてきて、ほかの喫煙客を立たせて自分たちはイスに座り、ただ品がないだけで内容のまったくないリーダー格のおしゃべりにヘラヘラ笑いながら相槌を打っているお前だよ。お友達の顔色をうかがうあまり「混んできたから外で待ってるね」という当たり前の一言すら言い出せないお前のことだ。
今の若者ってみんなこうなのか。自分がない。
案の定、タバコを吸っていたふたりが「滑るかー」と言って立ち上がると残りも全員立ち上がり、どやどやと喫煙所を去っていきました。
ふう。残ったおじさんスキーヤーふたりは空いた席に座ります。にぎやかだった喫煙室がにわかに静まり返り、気まずい沈黙が流れました。しかし無作法な若者たちに迷惑させられた者どうし、連帯感が生まれているはず。世間話をフるなら今です!
「いや〜、想像以上に雪が少ないですね……」
「は?」
(あれ、耳が悪いのかな)「想像以上に、雪が少ないですね」
「……雪が少ない、ですか」
(なっ)「ええ、あの、はい……」
「少ない、ですかねえ……」
待って待って待って。
そんなに引っかかるところじゃないよ。
そこらじゅう草ボーボーでしょう。クリスマス寒波前とは言え、どう見てもこの少なさは普通じゃないですよ。もしかしてあんたの目にはたっぷり深々とした雪が見えてるの? それどこ? どれ?
日本じゅうに何人のスキーヤーがいるのか知りませんが、そのほとんど全員にとって今最大の関心事がこの雪不足ですよ。世間話としてはこれ以上ないというくらい無難な話題を選んでフッたのに、なんなのその抵抗感!
じゃあこうしましょう。百歩譲って、雪はそこそこある、ということにしましょう。しときましょう。仮にそうだとしても、世間話をフられたら表面的に調子を合わせることくらいできるでしょう。さっきの若者たちが本能的にやってたことですよ。それを知らない人どうしでやるのがオトナ! タクシーの運転手さんが明らかに間違った見解で世相をぶった斬ってても、困ったなと思いながら笑って相槌を打ってあげるのがオトナでしょ!
すみません。世間話をフッた私が悪かったです。なんなんだこの喫煙所!
ゲレンデに戻ってリフトに乗ると今度はジュニアレーサーと相席になりました。懲りずに、もう一度世間話をフります。
「どこから来たの?」
「軽井沢です!」
「きみたちみんな速いねえ」(ウソ。見てない)
「大会とか、出てる」
「へえ! 一等賞とったことある?」
「ない……4位と、10位。去年は二年生といっしょだったから……でも今年はとれると思う」
「すごいなあ。おじさんは去年レース始めてね、大会も出たけど、ビリから数えたほうがずっと早いんだ。だから練習してるの」
「ふうん……」
「お互い、がんばろうぜ!」
「うん!(満面の笑顔)」
小学生のほうがちゃんと世間話が成立するじゃないですか。
最後に食堂に戻り、オバチャンに「あんこクロワッサン」の焼き上がり時間を訊きます。
「あと15分!」
「待ちます!」
アサマのレストラン「ラクーン」のあんこクロワッサン(300円)は焼きたてが絶品なのです。ハフハフ言いながらいただいてコーヒーを飲んで帰りました。
え、自分の練習? しましたよ。いちおう。少し。