連休に尾瀬岩鞍で這いつくばっていたことは前回ご報告した通り。その尾瀬岩鞍、そしてその周辺のスキー場へ向かう国道に、今年大きな変化がありました。
椎坂トンネルの開通です。
あのあたりは去年まではつづら折れの険しい山道で、冬ともなると怖ろしい雪道、ときには凍結路になってしまう難関だったのですが、その山をずどーんとトンネルがまっすぐ貫き通ってしまいました。
私は雪山道の運転は(機材車の性能のおかげで)それほど苦ではありません。むしろ好きなくらいです。
好きなのは緊張感。アクセルとブレーキとステアリングを協調的にコントロールして四輪のグリップを失わないように油断なく安全確実に走ることの難しさ、あれが楽しいのです。危なげなく走りきれたら私の勝ち、少しでもヒヤリとする瞬間があったら負け、みたいなゲーム感覚かもしれません。
なので椎坂の峠道も決して嫌いではなく、むしろ楽しいスキー旅行にボーナス的についてくるお楽しみとして歓迎しておりましたので、私にとって椎坂トンネルの開通は少し寂しい出来事でもあります。
しかし日常的にここを通行しなければいけない地元の人や雪道運転にあまり自信のない人々にとっては、やはりたいへんな福音と言えるでしょう。むっちゃラクでした、椎坂トンネル。椎坂トンネルがどんなトンネルで、開通によってどれほどラクになったかは、丸沼高原スキー場公式サイトの特設ページがわかりやすいです。
しかし要注意事項がひとつ。片品側の出口はいきなり急カーブになってるのです。
なんでも新道はさらにまっすぐ延伸するのが本来の計画らしいのですが用地交渉が難航していて、とりあえず出口で旧道に復帰する今の切り回しになったのだそう。なのでそこだけ無理のある線形なのですね。ちなみに、椎坂トンネルが途中で一度地上に顔を出すのは、工費を安く抑えるためだそうですよ。トンネルはある一定の長さを超えると排気設備などの要件が厳しくなり、工費が跳ね上がるのだそうです。
ま、経緯はともかく、冬のトンネル出口の急カーブはたいへん危険です。
とにかくこれでもかっちゅうくらい減速してください。
その理由として、まっすぐで路面の良いトンネル内を走ってきているのでオーバースピードになりがち、というのがまずひとつ。
さらに、トンネル出口ではみんながブレーキをかけるため、凍結路面が摩擦で磨かれてツルツルのアイスバーン化しやすいというのがもうひとつ。
そしてもうひとつ。この記事で特にお伝えしたいのは、トンネル内ではタイヤの温度が上がってしまっているという点です。
スタッドレスタイヤは、冬の雪道や凍結路でその性能を最大限発揮するように設計されています。つまりゴムがちゃんと氷点下何度かまで冷えていないと本来の性能を発揮できないつくりになっています。
しかるに、何キロかの乾いたトンネル内を走行してきたタイヤは、地熱と自身の摩擦熱とでほどよく温まってしまっています。そのタイヤの設計上雪道を走るのに適した温度ではなくなってしまっているわけです。
トンネルの出口では、もはや彼はあなたがよく知っているいつもの彼ではありません。別人です。ともに何度も雪山に通い、よく分かり合えていたつもりでも、長いトンネルの出口が雪道だったとき彼はあっけなくあなたを裏切ります。「えっ」ていう滑り方をします。
「出口は雪道かもしれないから、このくらいのスピードだな」っていう減速のしかたでは実はまだまだ足りないということです。ノーマルタイヤを履いてるつもりで減速しましょう。いつものスタッドレス+雪道の運転スタイルに戻すのは、じゅうぶんにタイヤが冷えてからです。
レース用のタイヤは、レース真っ最中の時の温度帯でもっとも高い性能を発揮するように設計されています。だからピットの中ではタイヤウォーマーを使ったり、スタート前のフォーメーションラップでは蛇行や急発進・急ブレーキを繰り返したりして、タイヤをあたためてやりますよね。ピットから出たばかりの周回(アウトラップ)ではタイムが出ませんし。
冬タイヤもそれと同じ。スタッドレスタイヤという製品がターゲットとしている温度帯に達するまでは無理をしちゃいかんということです。
武尊、尾瀬、丸沼といった界隈のスキー場に行かれる皆さん。
どうか椎坂トンネルは出口にお気をつけ下さい。