2013年06月11日

タイラー・ハミルトン『シークレット・レース』

タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル共著『シークレット・レース〜ツール・ド・フランスの知られざる内幕』を読んだ。これがもう、抜群に面白かった。

$せめてひとなみに。-シークレット・レース

『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』
タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル 著 児島修 訳 小学館文庫

ものすごく大くくりに言うと、いわゆる暴露本である。

ヨーロッパのプロ自転車ロードレースの第一線で活躍したタイラー・ハミルトンが、その選手生活を「ドーピングとのつきあい」を軸に語る(本文はハミルトンが一人称で語る形式をとっているが、正確にはスポーツライターのダニエル・コイルが2年の歳月を費やして聞き取ったインタビューを再構成したものである)。

プロロードレースの世界が薬物にどっぷりであることはフェスティナ事件オペラシオン・プエルト、その後も続々と報道される一流選手たちの陽性反応、フロイド・ランディスの告白、きわめつけはランス・アームストロングのテレビ番組での告白などでじゅうぶん承知していたつもりだった。

しかし、この本で語られていること──ドーピングがいかに広範に、かつ気軽に、巧妙に、高度に行われていたかを、あらためて当事者の口から語られるとやはり驚きの連続。自宅を検査官に抜き打ち訪問されて夫婦で床に伏せるくだりなど、まるで犯罪小説を読んでいるような錯覚に陥ってしまう。というか、ノンフィクションであるだけに並の犯罪小説よりもスリリングだ。

業界に巣食う薬物汚染の実情と、心揺れ動きながらもその渦に飲み込まれていくハミルトンの運命というのが本書の大きなテーマのひとつなのだけれど、実はもうひとつ大きなテーマがある。

オビに踊る「『アームストロング神話』は本書をきっかけに結末が書きかえられた。」のタタキ文句のとおり、この本はランス・アームストロングの告発書でもあるのだ。

はっきりと言うが、ランスのファンは本書を読まないほうがいい

本書において、ランス・アームストロングはもうひとりの主人公かむしろ主人公以上の存在感で語られる。そしてその姿のほとんどは「気分屋で冷酷無慈悲で攻撃的なお山の大将」、つまりジャイアンとして描かれる。勝利に対する執着心は常軌を逸しており、競争相手を叩きのめすためには手段を選ばない。そうした冷酷さはライバル選手にとどまらずチームメイトにも向けられる。本書に描かれるランスからは、いっさいのモラルを感じることはできない。ハリウッド映画の悪役もかくやというような巨悪として描かれている。

ツール・ド・フランスというレースのステータス、過酷さ、ビジネスの大きさを考えると、7連覇という偉業の裏でどのようなことが行われていたとしても不思議はないが、この本を読むとその歴史的な偉業はカネと権力を手に入れたテキサスの精神病質者が自転車界を腕ずくで牛耳って作り出した壮大なウソだったということがわかる。

どこまでが事実でどこまでがハミルトンの私怨なのかは我々にはわからないが、ともかくランスに関する記述は本書を通じて首尾一貫していて、私には信頼できる内容と感じられた。

私はもともとランスのことはそれほど好きではなくて、連覇中はむしろ「ランスを引きずり降ろすのは誰か」だけを楽しみにツール・ド・フランスを観戦していたクチだけれど、それでもこの本で描かれるランス像には少なからず幻滅を味わった。こんな野郎にみんなが振り回されていたのか、と。

なので、「ドーピングはしてたかもしれないけど、それでもやっぱりランスはすごいやつだ」といまだに崇敬の念を捨てきれずにいるファンは、悪いことは言わない、この本を読まないほうがいいと思う。

しかしそうでない自転車競技ファンはぜひ読んでほしい内容だ。特に、ハミルトンの時代にロードレースを観ていた人にはおなじみの選手もたくさん出てきて、業界裏話的な楽しみ方もできる。訳の良さもあろうが、文章じたいがとても読みやすく面白いので、ドーピングばかりでなくもっとロードレースの「普通の」舞台裏をたくさん紹介してほしかったと思う。

日本では訳出期間の関係でオプラ・ウィンフリーによるインタビューの後に刊行されるかたちとなったので、本書のもたらすショックはそれほどでもなかったと思うけれど、アメリカ本土ではそれより前に刊行されたので世間に与えたインパクトもさぞや大きかったろう。

ランスのドーピング疑惑の時系列はこんな感じだ。

2010年5月フロイド・ランディスによる証言
2011年5月タイラー・ハミルトン、TV番組で証言
2012年6月USADAによる告発
2012年9月ハミルトン「シークレット・レース」刊行
2012年10月永久追放処分確定
2013年1月ランス、TV番組でドーピングを告白

本土では、外堀が埋まったところに引導を渡したような役割を果たしていることがわかる。そのインパクトの大きさは米アマゾンで本書のレビュー投稿が700件を超えていることからもうかがい知れる。

posted by Gyochan at 22:30 | Comment(5) | TrackBack(0) | 自転車

2013年06月10日

ヒルクライムなんかのどこが楽しいのか

坂道キライです。

世の中の坂道が全部下りだったらいいのに、と思います。下り坂だけで構成された周回コースを引こうとルートラボとしばらく格闘しましたが、なぜかどうしても引けません。どうやらルートラボの仕様では無理のようです。

そのくらい坂道キライです。

苦しいし、きついし、苦しい。あと、苦しい。呼吸は苦しい、心臓も苦しい。脚は痛くなってくる。やがて肩や首も痛くなってくる。ゼエゼエと喉に痰がからんでくる。肺からいやなにおいがしてくる。

登ってる間じゅう、「痛い」「苦しい」「今すぐやめたい」「来るんじゃなかった」「なんで俺こんなことしてるんだ」「痛い」って思ってる。何度登っても、もう山道なんか走るもんかと思う。そう何度も走ったわけじゃないですが

なのにどういうわけか、日が経つと、「どこかにいい坂道ないかな……」とか考え始めてる。あんだけ坂道キライなクセに。

こないだ、尾瀬にハイキングに行ったんですよ。鳩待峠っていう登山口までバスで連れてってもらうんですが、気がつくと窓からその峠道を見ながら「ああ、ここを自転車で登りたいなあ……しんどいだろうなあ……」なんて考えてるんですよね。

自分でもどういうメンタリティなのかよくわかりません。

そりゃ、てっぺんに着けばうれしいし、達成感もそれなりにありますよ。けどそれをまた味わいたいというわけではなさそうなんですよね。

むしろ魂が求めてるのは、心拍がえらいことになってるときの、あの血の味、のような気がします。「こっ、こんな肺じゃ酸素が足りん……ッ!!」って思ってるときに自分の吐いた息から感じられる、あの血の味です。

ハッキリ言って、ふだんサイクリングロードを走ったり尾根幹線を走ってるくらいで呼気からあんな血の味がしてくることはありません。というか、平地じゃそこまで追い込みません。無意識に手を抜いてしまうのです。このくらいでいいや、ってところで、踏むのをやめちゃう。ちょっとでもつらくなったらいつでもやめられる。意思力のないライダーにとって平地はぬるま湯でしかないのかもしれません。

そこへ行くと山道は、踏むのをやめればたちまち止まってしまう。下りで一息ついたり、真剣に走ってるフリをしながら実は惰性でトルクを抜いたりできません。言ってみれば、背の立たないプールのようなものです。泳いでいないと溺れる。つまりそこへ行けばイヤでもがんばらざるをえない。というか、そこへ行かないとがんばらない山道を走らないと自分の限界と出会えない

わかってきました。

平地ばっか走ってて根性がフヤけてきたみたいだから、たまには本当の自分っつーものを確認しに来い

と、山が呼んでいるのです。きっと。

posted by Gyochan at 22:02 | Comment(5) | TrackBack(0) | 自転車

デュラエースは2023年に12速化する!

シマノコンポのリア段数の変遷を年表にしてみました。

デュラ
エース
アルテ
グラ
105ティア
グラ
1990
19918
19928
19938
19948
1995
19969
19979
19989
19999
2000
2001
2002
200310
200410
200510
2006
2007
2008
2009
2010
201110
201211
201311
201411?

この年表から読み取れることはふたつあります。

まずひとつは、「リア増段は1年ごとに下位機種に降りてくる」。デュラエースが段を増やした翌年にアルテグラが、その翌年に105が、その翌年にティアグラが増段しています。ティアグラの10速化が5年も遅延したのを唯一の例外として、かなり律儀にこのルールは守られています。

このパターンをそのまま適用すれば、2014年つまり来年には105も11速化することが予測可能ですよね。

もうひとつは、「1段増やすための開発スパンが2年ずつ延びている」ということ。8速から9速までには5年しかかかっていませんが、10速化に7年11速化には9年を要しています。

このパターンをそのまま適用すれば、11速化した2012年の11年後、2023年にデュラエースは12速化する、と予測できます!

ははは。ものごとはそんな単純じゃないに決まってますがね。

開発スケジュールと販売戦略がイコールとは限りませんし、ライバルメーカーの開発状況にも対応していかなければいけないでしょう。また、そもそも12速化に際してはきっとリアエンド幅の見直し(130mm→135mm?)なども行われることでしょう。

ん〜。

ってゆーか、12速、いる?

posted by Gyochan at 21:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 自転車