(前回からの続き)
特定保健指導によって立てられた行動計画、その多くは「ご飯のおかわりをガマンする」「駅まで歩く」などの当たり前なものであったが、目玉と言えるものがひとつあった。
「週に一度以上スキーをする、もしくは自転車に乗る」
メタボ判定を受けたのが4月で、スキー好きにとってはまだオンシーズン。ほとんど毎週のようにスキーにでかけていた私は、体重こそ変わらないものの体型が変わってきていることを実感していた。ブッたるんでいた体のあちこちが引き締まってきていたのだ。「あれ? こんなところにくぼみがあったっけ? こんなところが盛り上がってたっけ?」 といった感じで。
私の保険指導にあたった管理栄養士さんにスキーがいい感じであることを告げると、
「でももうすぐスキーシーズンは終わってしまいますよね。何か、オフシーズンも続けられる運動はありますか? ジョギングとか……」
「いや〜、走るの大キライなんですよね。そうですね……あそうだ、自転車を持ってます。ロードレーサーっていう、競技用の」
「ではそれに乗りましょう。乗ってください(ビシィ」
と、あっさり自転車に乗ることを決められてしまった。
そうだ、私はロードレーサーを持っていたのだ。5年ほど前に、ほぼ新品のキャノンデールをほぼ半額で友人から譲り受けた。買った当初こそ喜んで乗っていたが、いつしか家でホコリをかぶってしまっていたのだった。一時期ハマッて、ローラー台まで買ったもんなあ。あれに再登場願うのは悪くない。自転車に乗るのは大好きだし。さらに言えば、スキーのオフトレに何をするかそろそろ計画を立てないと、と考え始めていたところだったのだ。自転車、ピッタリではないか!
GWまではスキーに打ち込み、GW明けからは自転車に乗ろうと決意した。しかし、5月は仕事でほとんど毎週末休日出勤という有様で、結局、実際に乗れたのは6月に入ってからだった。
さいわい、自宅の周辺は多摩サイや尾根幹線といったサイクリングに好適なコースにめぐまれていて便利。地元を低負荷高ケイデンスで毎週末じんわり2時間くらい走ろうと決めた。
レースに出るわけでもヒルクライムをするわけでもなく、自転車に乗る目的は減量と決まっているので気分的なハードルは低い。時速何キロ出さなきゃとか何マイル走らなきゃとかの縛りは設けず、「まあまあ運動になってるな」くらいでよしとする。ただし毎週末1回は走ること。
たちまち、体重がするすると落ち始めた。自転車に乗るやいなや減り始めた。
81〜83kg あたりを行ったり来たりしていた体重が、75kg まですぐに落ちた。月に 2kg 以上ずつ落ちていった勘定だ。こんなに簡単なのか。今は 74kg ちょうどくらいで少し停滞していて壁にぶちあたった感があるが、それにしてもここまでの道のりはたやすかった。
見た目も変化してきた。自転車に乗り始めて1ヶ月くらいで早くも「やせたね」と社内で声をかけられ、ひさしぶりに会う友達も口々に「やせたね」を連発。これは気持ちいい。ベルトの穴がどんどん奥へ進んでいく。衣替えで出してきた去年の短パンはブカブカではけない。俺ってやせてる!
真っ先に落ちたのはおそらく内臓脂肪だろう。おなかのタプタプ感はそのままなのに、ベルトの穴は減っていくのだ。横から見たときのお腹の厚みが薄くなっているのがわかる。「内臓脂肪はたまりやすく落ちやすい」「皮下脂肪を定期預金とすると内臓脂肪は普通預金」など言うがその通りだと思った。
やがて、全身まんべんなく皮下脂肪に覆われてのっぺりとしていた身体のそこここに見慣れぬ起伏が現れてきた。これまでの人生で一度も観察されたことのなかったくぼみ、溝、出っ張り、隆起があちこちで確認されるようになった。皮下脂肪も落ちてきているのだ。
メシをちょっと軽くして週末自転車に乗る、たったこれだけのことなのに目に見える効果があらわれてきた。こうなるとはずみがつくというか、モチベーションがあがってくる。缶コーヒーを買うときにためらいが出る。ご飯をよそうときに理性が働く。空腹は満たすのではなくまぎらわすようになる。「昨日減らした 500g が、これを食うと無駄になるな」と思う。いよいよ毎日の体重計測が気にかかるようになる。
なんだか以前とは別人のように減量にこだわり始めた私だけれど、空腹でイライラして人に迷惑をかけたり、仕事で能率が落ちたりミスが増えたりするのはオトナとして絶対にNG、と心に決めているので、食うところではきちんと食うことにしている。
朝はミニストップのグリルドッグといううまいうまいホットドッグを食うし、昼も弁当を食う。夜だってあんまりお腹がすいていると眠れないのでどんなに遅く帰っても抜くことはしない。あくまでも食事は体重が大幅に増えないようにコントロールするにとどめ、減量は自転車をメインとする。フィジカルにもメンタルにも、今のところこのやり方が自分にはピッタリのようだ。